企業の語学研修は、社員が対応すべき仕事の場面から考えて選びます。そのうえで、参加状況、練習量、業務タスクでのパフォーマンス、職場での活用、1〜2つのビジネス成果を測定します。

要点

  • 企業の語学研修は、ニーズ分析から始めます。どの職種が、どの場面で、どのレベルの言語を使うのかを把握します。
  • 多くのプログラムは複数の形式を組み合わせています。一人あたりの練習量と、得られる効果のエビデンスで比較しましょう。
  • 測定は階層で考えます。参加と練習はインプット、業務タスクでのパフォーマンス、職場での活用、ビジネス指標は成果です。
  • ROIを計算するのは、研修の効果を切り分け、それを信頼できる形で金額に換算できる場合だけにします。
  • 初回測定の業務タスクと、事前に合意した成功基準を用意して、90⁠日間のパイロットを行います。

企業の語学研修は何から始めるべき?

企業の語学研修は、ベンダーのデモではなく、ニーズ分析から始めるべきです。企業の語学研修とは、会議の進行、お客様からの電話対応、障害報告書の作成など、社員が実際の仕事で言語を使えるようにするためのプログラムです。目標は一般的な流暢さではなく、決められた業務場面で安定して対応できることです。

ニーズ分析とは、誰がその言語を必要とし、どの場面で、どれくらいの頻度で、どの程度の重要度で、どのレベルで使うのかを調べる短い調査です。ニーズは業界によって異なります。Cambridge EnglishとQSが2016⁠年に行ったEnglish at Work調査(38⁠か国の5,373⁠の雇用主が対象)では、英語のスキルとして最も重要なのはリーディングだとした業界が11、スピーキングだとした業界が9⁠あり、すべての業界で、求められる英語力と実際の英語力の間にギャップがあると報告されています。

職種・場面・レベルを整理する

1⁠枚のマップにまとめると、「社員の英語力をもっと上げたい」という漠然とした要望を、研修して測定できる目標に変えられます。

職種場面重点スキル目標の例
カスタマーサービス予約変更の電話、苦情メールスピーキング、リスニング、短いライティング予約変更の電話を、他の人に回さずに対応できる
エンジニア取引先との通話、障害報告書スピーキング、技術文書のライティング取引先との通話で、不具合と次の対応を説明できる
マネージャー会議、プレゼンテーションスピーキング、リスニング週1⁠回の地域会議を英語で進行できる
経理・バックオフィス契約書、サプライヤーへのメールリーディング、ライティング書き直し不要なサプライヤー宛てのメールを作成できる

現在のレベルはCEFRで表します。CEFRは欧州評議会が定めたA1⁠からC2⁠までの6⁠段階の尺度で、「〜ができる」という能力記述文で定義されています。短い業務タスクを録音して、あとでくり返せる初回測定にしましょう。ニーズ分析の質問とロールプレイカードについては、ESPのコース設計のガイドをご覧ください。

現実的な期間を設定する

Cambridge Englishは、CEFRのレベルを1⁠つ上げるには約200⁠時間のガイド付き学習時間(授業と指導付きの学習)がかかると見積もっています。Cambridge自身はこれをあくまで目安としており、学習歴、学習の密度、年齢、授業外の練習によって変わります。週2⁠時間なら、1⁠年間の研修で約100⁠時間です。ですから目標は、「3⁠か月でCEFRを1⁠レベル上げる」ではなく、「3⁠か月目までに予約変更の電話に対応できる」のように、プログラムの期間内に達成できる業務タスクとして設定しましょう。

どの研修形式がどのニーズに合う?

企業の語学研修の形式は、主に一人ひとりが話す時間の多さ、スケジュールの柔軟さ、効果測定に使えるエビデンスの違いで分かれます。多くのプログラムは、下の6⁠つのうち2〜3⁠つを組み合わせています。

形式強み限界測定方法
社内のグループレッスン目標を共有できる。講師が社内の資料を使える一人あたりの話す時間が少ない。シフト勤務や時差があると難しい出席率。開始時と終了時の業務タスク
社外の講座体系的なシラバス。資格につながることが多い内容が汎用的。時間割が固定、または移動が必要出席率、講座の成績、職場での活用についての上司の確認
1⁠対1⁠のオンラインレッスン完全に個別対応。役職者や単発の重要な場面に向く日程調整と一人あたりの費用。質は講師次第実施回数、講師のレポート、前後の業務タスク
自習型アプリ柔軟。語彙、文法、学習習慣に役立つスピーキング、ライティング、フィードバックが少ない。目標がないと離脱しやすいアクティブユーザー数と学習時間(インプットのみ)
AIスピーキング練習研修の合間に仕事の会話を練習でき、すぐにフィードバックが得られるフィードバックの質にばらつきがある。データの取り扱い方針を要確認。人との信頼関係は生まれない練習量、くり返したロールプレイのスコア、上司の観察
ブレンド型複雑なコミュニケーションはライブの授業で、その合間は練習で補う調整と、明確な責任者1⁠人が必要上記すべてを1⁠つの枠組みで

Berlitzなどの語学学校は企業グループ向けのライブのオンラインレッスンを提供しており、Speexxのような企業向けプラットフォームは、CEFRに基づく評価、デジタルのマイクロラーニング、AIとライブのコーチによるサポートを組み合わせています。下のRFPチェックリストを使い、同じ質問で各社を比較しましょう。

語学研修の効果はどう測定する?

語学研修の効果は階層で測定します。インプット(参加と練習)はプログラムが動いていることを示し、成果(業務タスクでのパフォーマンス、職場での活用、ビジネス指標)はプログラムが機能しているかを示します。修了率が示すのは参加であって能力ではないので、修了率を研修の成果として報告しないでください。

1950⁠年代にDonald Kirkpatrickが考案したカークパトリックモデルは、研修を4⁠つのレベルで評価します。反応(仕事に関連しているか)、学習、行動(重要な行動が職場で実践されているか)、結果(組織として目指す成果)です。フィリップスのROI方法論(ROI Methodology)はこのレベルを土台に、インプットをレベル0⁠とし、投資対効果を測るレベル5⁠を加えています。下の枠組みは、語学研修ならではの指標を両方のモデルに対応させたものです。

指標レベル収集方法時期注意点
参加インプット(フィリップスのレベル0)登録者数、週ごとのアクティブ学習者数、出席したセッション数毎週示すのは取り組みであって能力ではない
練習量インプット(フィリップスのレベル0)話した時間(分)、完了したロールプレイ数、提出したライティング課題数毎週または毎月量は質ではない。タスクでのパフォーマンスと組み合わせる
タスクでのパフォーマンスカークパトリックのレベル2同じ業務タスク(たとえばお客様との電話のロールプレイと仕事のメール)をルーブリックで採点初回、中間、終了時毎回同じタスクとルーブリックを使う。一部は2⁠人で採点する
上司による観察カークパトリックのレベル3上司と合意した3〜5⁠つの重要な行動のチェックリストと、業務の成果物モジュール終了の1⁠か月後と3⁠か月後言語を使う機会がないなどの障害も記録する
ビジネス成果カークパトリックのレベル4言語が影響しうる既存の指標を1〜2⁠つ。英語での問い合わせの満足度スコア、他の人への引き継ぎ件数、手戻りなど四半期ごとほかの要因も影響する。似たチームや過去の推移と比べる

レベル1⁠については、終了時だけでなく早い時期に短いパルスサーベイを行いましょう。Kirkpatrick Partnersは導入期間中のパルスチェックを勧めており、仕事との関連性を反応の最も重要な指標としています。スピーキングのタスクを一貫して採点するには、英語スピーキング評価ルーブリックのような分析的ルーブリックを使いましょう。

語学研修のROIは計算できる?

語学研修のROIを計算できるのは、ビジネス指標に対する研修の効果を切り分け、その効果を信頼できる形で金額に換算できる場合だけです。フィリップスのROI方法論では、ROI(%)=プログラムの純便益÷プログラムの費用×100、費用便益比(BCR)=便益÷費用です(Phillips and Phillips, ROI Basics, ATD Press, 2019)。

その指針となる原則のうち、語学研修で特に重要なのは次の3⁠つです。

  • 効果を切り分ける。対照群、トレンドライン分析、誤差を補正した推定値など、少なくとも1⁠つの方法を使います(ROI Institute)。似たチームが1⁠四半期遅れて始める段階的な導入にすれば、別途調査をしなくても比較群が得られます。
  • 費用をすべて含める。研修会社への費用やライセンス料、研修に使った社員の時間、上司や管理担当者の時間、教材の準備を含めます。
  • 控えめに見積もる。それぞれの計算で最も控えめな選択肢を選び、短期的な施策では初年度の便益だけを数えます。

人数が少ない場合、ビジネス指標が多くの理由で同時に動く場合(新しいシステムの導入、組織再編など)、金額への換算が推測に頼る場合は、ROIの数字を無理に出さないでください。代わりにレベル3⁠とレベル4⁠の結果を報告し、無形の効果を挙げましょう。無形の効果とは、フィリップスの言葉でいえば意図的に金額に換算しない指標で、たとえば同じ数人のバイリンガルの同僚に回される電話が減ることなどです。Kirkpatrick Partnersは別の立場をとり、「貢献的ROI(contributive ROI)」を勧めています。これは、研修を唯一の原因として切り分けるのではなく、研修と合理的に結びつけられる改善の割合を報告するものです。

90日間の語学研修パイロットはどう進める?

90⁠日間のパイロットとは、本格導入の前に、事前に合意した成功基準に照らして、1⁠つのチームで企業の語学研修プログラムを試すことです。90⁠日でCEFRのレベルが上がることはありません。週2〜3⁠時間なら、パイロットで積み上がるのは約25〜40⁠時間で、Cambridgeの目安である1⁠レベルあたり約200⁠時間には遠く及びません。代わりに、業務タスク、練習、上司の観察でパイロットを評価しましょう。

段階行うこと成果物
1〜14⁠日目:準備ニーズが明確なチームを1⁠つ選ぶ。目標場面を2〜3⁠つ選ぶ。業務タスクの初回測定を録音する。成功基準と上司用チェックリストを合意する初回測定のスコア、文書化した成功基準
15〜45⁠日目:開始研修を始める。参加と練習を毎週確認する。3⁠週目にパルスサーベイを行うインプットのデータ、レベル1⁠のフィードバック
46〜75⁠日目:確認中間チェックとして業務タスクをくり返す。上司が重要な行動を確認する。練習時間が確保できないなどの障害を取り除く中間スコア、障害のリスト
76〜90⁠日目:判断同じルーブリックで初回のタスクをくり返す。上司の観察を集める。合意した基準と比べる短い報告書、拡大・変更・中止の判断

成功基準は研修開始前に書き出しておきましょう。たとえば、週ごとのアクティブ学習者の最低割合や、ルーブリックのスコアの目標とする伸びなどです。あとから決めた基準は、起きた結果に合わせたものになりがちです。

語学研修のRFPには何を入れる?

語学研修のRFP(提案依頼書)は、ニーズ分析、評価、練習、コンテンツの管理、レポート、データ保護、契約条件について、すべての研修会社に同じ質問に答えてもらうものにすべきです。この13⁠項目のチェックリストを依頼書にコピーしてお使いください。

  1. ニーズ分析:最初に一緒に職種と場面を分析してもらえますか?マニュアルや通話スクリプトなど、自社の資料を使って練習を作れますか?
  2. 評価:開始から終了までの伸びをどう測りますか?CEFRに沿っていて、業務タスクに基づいていますか?誰が採点しますか(人、AI、またはその両方)?レポートの見本を見せてもらえますか?
  3. 産出の練習:学習者一人あたり毎週何分のスピーキングとライティングを行い、どんなフィードバックを受けますか?
  4. 形式と利用環境:ライブの授業、自習、AI練習をどう組み合わせて提供していますか?シフト勤務、時差、モバイルに対応していますか?
  5. コンテンツの管理:AIが生成したコンテンツは誰が確認しますか?社員が目にする前に、自社の講師が教材を編集・承認できますか?
  6. レポート:人事と上司には何が見えますか?データをエクスポートできますか?
  7. データ保護:データはどこに、どの法律(たとえばGDPR)のもとで保存されますか?保存期間はどれくらいですか?音声データはモデルの学習に使われますか?オプトアウトできますか?
  8. 言語とアクセシビリティ:学習言語とインターフェースの言語、アクセシビリティ機能は何に対応していますか?
  9. 連携とセキュリティ:シングルサインオンや、自社のLMS・人事システムとの連携に対応していますか?取得しているセキュリティ認証があれば教えてください。
  10. パイロット:事前に合意した成功基準で、90⁠日間のパイロットを実施してもらえますか?
  11. 品質基準:語学学習サービスについてのISO 29991:2020のような公認の規格に準拠していますか?要件ではなく、質問として尋ねましょう。
  12. 導入実績の照会:業種と規模が近い顧客に話を聞くことはできますか?
  13. 契約条件:料金体系(席数ごとか、アクティブユーザーごとか)、最低利用数、契約期間、解約条件はどうなっていますか?

AvoLingoが合う場合、合わない場合

AvoLabsが提供するAI語学学習サービスのAvoLingoは、研修と研修の間に、話す・書く練習を加えるものです。講師、チューター、既存のプログラムに取って代わるのではなく、それらと並行して使います。

AvoLingoが合う場合

  • 自社の資料や場面から練習を作りたい場合。製品資料、業務マニュアル、言葉で説明した場面から、職種ごとのロールプレイ、文の練習、仕事で使う単語の練習を作れます。講師は下書きを編集・プレビューでき、講師が割り当てるまで社員には何も届きません。
  • 社員が実際の会話を練習する必要がある場合。ロールプレイではAIがお客様や同僚を演じ、社員は決められたタスクに取り組みます。ヒントを確認でき、返答したあとは自分の文の解説を読めます。
  • 研修の合間に、文の発音スコアや文ごとのライティングのフィードバックなど、すぐに得られるフィードバックが欲しい場合。講師はあとで記録を確認します。
  • 人材育成部門が参加状況と進捗のデータを必要としている場合。企業向けのAvoLingoのページにあるとおり、管理者は個人の進捗、チームの参加状況、練習の結果、その人が苦手としたフレーズを確認できます。

AvoLingoが合わない場合

  • 人とのライブの会話が主なニーズである場合。たとえばエグゼクティブコーチングや交渉の準備です。AvoLingoには人間のチューターとのライブセッションがないので、チューターや講師を利用してください。
  • プレースメントテストや認定スコアが必要な場合。外部のテストを基準として使ってください。
  • 調達の要件として、特定のシステム連携やセキュリティ認証が必要な場合。対応しているものと決めつけず、パイロットの前にお問い合わせページから確認してください。
  • 誰も練習の時間を確保しない場合。時間がなければ、どんな練習ツールも機能しません。

よくある質問

語学研修のROIはどう測る?

段階ごとに測ります(参加、練習、業務タスクでのパフォーマンス、職場での活用、ビジネス指標)。フィリップスのROIの計算式を使うのは、研修の効果を切り分けて金額に換算できる場合だけにし、そうでなければ成果と無形の効果を報告します。

社員の英語力が伸びるまでにどれくらいかかる?

Cambridge Englishは、CEFRの1⁠レベルあたり約200⁠時間のガイド付き学習時間を見積もっていますが、あくまで目安です。レベルアップを約束するのではなく、プログラムの期間内に達成できる業務タスクとして目標を設定しましょう。

修了率は語学研修のよい指標ですか?

いいえ。修了率が示すのは参加であって能力ではありません。くり返し行う業務タスクの評価と、上司による観察と組み合わせましょう。

社員向けの英語研修には何を含めるべき?

社員向けの英語研修には、職種ごとのニーズ分析、一人ひとりに十分なスピーキングとライティングの練習、開始時と終了時の業務タスクによる評価、上司の関与、人事が行動に移せるレポートを含めるべきです。

参考資料

AvoLingoチームが執筆しました。調査と下書きにAIを活用しており、参考にした資料は本文中にリンクしています。

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