ESP(
要点 ESPのコース設計は、学習者が英語でこなすべき仕事や学業のタスクから逆算して進めます。
- 学習者、上司または学部の教員、その分野の専門家にニーズ分析を行います。目標ニーズ(その分野が求めること)と学習ニーズ(この学習者がそこにどう到達できるか)の両方を調べます。
- 頻度が高く、失敗したときの影響が大きい場面を6〜8つの目標タスクにし、それぞれにCAN-DO形式の目標を立てます。
- シラバスはそのタスクを軸に組み立て、各タスクをロールプレイとして練習します。学習者はくり返し取り組み、回を追うごとに想定外の展開を加えます。
- 評価は、開始時・中間・終了時に同じ目標タスクで行い、分野の評価項目を含むルーブリックで採点します。
- AIは、アンケートやロールプレイカードの下書きと、授業の合間の練習に使えます。分野の事実関係は教員か専門家が確認します。
ESPのコース設計とは?
ESP(English for Specific Purposes、特定の目的のための英語)とは、看護の申し送り、不具合の報告、ゼミでのディスカッションなど、特定の職業や学問分野で学習者がこなすべきタスクのために教える英語です。HutchinsonとWaters(1987年)は、ESPを、内容と教え方についての判断が学習者の学ぶ理由から導かれる言語教育のアプローチだと説明しています(Gatehouse, 2001での引用による)。
ESPのコース設計とは、そうしたタスクが何かを調べ、必要な言語と教材を選び、シラバスとして順序立て、学習者が実際にできるようになったかを確かめるプロセスです。一般英語は幅広いレベルの段階に沿って進みますが、ESPのコースはその分野の場面から出発し、それに役立つものだけを選びます。
欧州評議会も同じ方向を示しています。CEFR補遺版(Companion Volume、2020年)は、職業領域を言語使用の4つの領域の1つに挙げており、その行動志向アプローチは、複数の授業にまたがり最後のタスクにつながる現実的なシナリオを軸に学習を組み立てます。このガイドは、大学のESPコーディネーターや担当教員、語学センター、企業研修の講師に向けたものです。
ESPコースのニーズ分析はどう進める?
ESPコースのニーズ分析とは、学習者が英語で何をする必要があるか、今何ができるか、そして現実的にどう学べるかを体系的に調べることです。HutchinsonとWatersのEnglish for Specific Purposes(1987年)は、ニーズを2種類に分けています。
- 目標ニーズ(target needs):目標となる場面が求めること。必要なこと(necessities:学習者ができなければならないこと)、不足(lacks:必要なことと現在の英語力との差)、希望(wants:学習者自身が必要だと感じていること)に分けられます。
- 学習ニーズ(learning needs):学習者が学ぶために必要なこと。時間、意欲、好みの練習方法、コースの条件などです。
情報源は複数にしましょう。Michael Longが編集したSecond Language Needs Analysis(2005年)には、ワイキキのホテルの客室清掃スタッフからカタルーニャのジャーナリストまで、情報源と方法を比較した事例研究が集められています。全体を貫くのはトライアンギュレーション、つまりある情報源を他の情報源と照らし合わせるという考え方です。学習者、雇用主、専門家、実際の文書は、それぞれ全体像の異なる部分を見ているからです。
Helen BasturkmenのDeveloping Courses in English for Specific Purposes(2010年)は、多くのコースが省いてしまう手順を加えています。専門分野のディスコース(その分野で実際に使われている言語)そのものを調べることです。教材を書く前に、その分野の実際のメール、報告書、録音、症例記録などを集めましょう。
そのまま使えるニーズ分析の質問リスト
これらの質問は、学習者、直属の上司または学部の教員、専門家に使えます(後の2者に使うときは「あなた」を「御社の社員」や「学生」に置き換えてください)。かっこ内は、その答えから何がわかるかを示しています。
- 仕事や学業で、英語を使う(または使う予定の)場面はどれですか?頻度の高い順に挙げてください。(必要なこと)
- 誰に向けて(顧客、患者、同僚、試験官など)、どんな形式で(電話、対面、メール、報告書、プレゼンテーション)話したり書いたりしますか?(必要なこと)
- 最も重要な場面を3つ挙げてください。その場面でコミュニケーションがうまくいかないと、何が起こりますか?(優先順位)
- 実際に扱っている文書を2〜3点、個人情報を除いたうえで共有していただけますか?(専門分野のディスコース)
- 自分の分野の単語やフレーズで、毎週必要になるものは何ですか?(必要なこと)
- 今いちばん苦労しているのはどれですか?聞き取り、話すこと、書くこと、専門用語のうちから選んでください。(不足)
- このコースに個人的に何を期待しますか?(希望)
- 毎週どれくらい、いつ学習できますか?シフトの合間、通勤中、週末などです。(学習ニーズ)
- どのように練習するのが好きですか?一人で、ペアで、先生と、アプリで、などです。(学習ニーズ)
- コース終了までにもっとうまくできるようになりたいタスクを1つ挙げてください。できるようになったことは、どうすればわかりますか?(評価)
ニーズをタスクと目標に落とし込むには?
ニーズ分析の結果は、目標タスクに変えることでシラバスになります。目標タスクとは、「予約が見つからないお客様のチェックインをする」のように、学習者が英語で対応すべき具体的な出来事です。各場面を、起こる頻度と、うまくいかなかったときの損失の大きさで順位づけし、両方で上位に入る6〜8つを残します。
目標タスクごとにCAN-DO形式の目標を1つ書き、状況、質の条件、目安となるCEFRレベルを含めます。使いやすい型は「学習者は[相手]と[形式]で[タスク]ができる([質の条件])」です。
| ニーズ分析でわかったこと | 目標タスク | CAN-DO形式の目標 |
|---|---|---|
| 夜勤スタッフが予約ミスに一人で対応している | チェックイン時に見つからない予約を解決する | 謝罪し、2つの選択肢を示し、お客様が選んだものを確認できる(B1) |
| 苦情がこじれているとマネージャーが報告している | 不満を持つお客様を落ち着かせる | 問題を認め、断りをやわらげ、解決策に合意できる(B1〜B2) |
| お客様が滞在後にメールを送ってくる | フォローアップのメールを書く | 謝罪と次の対応を含む、明確で丁寧な返信を書ける(B1) |
教材を書く前に、専門家に目標を確認してもらいましょう。CEFR補遺版は、その能力記述文を、継続的なニーズ分析の一環として成人学習者と優先順位を話し合うためのメニューとして位置づけています。中間チェックのあとで、目標のリストを見直してください。
10週間のESPシラバスはどんな形になる?
ESPのシラバスは、文法ではなく目標タスクで組み立てます。毎週、学習者が直面する1つの場面を中心にし、言語面の焦点はその場面に役立つものにします。下の表は、B1前後の学習者を対象としたホテルのフロント業務コースのテンプレートで、実在のコースではありません。ご自身のニーズ分析から出たタスクに置き換えてください。
| 週 | 目標タスク | 言語面の焦点 | 授業で | 授業の合間に |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 初回測定:お客様のチェックインと、問題1つへの対応 | — | 初回のタスクを録音し、ニーズ分析を行う | — |
| 2 | 歓迎とチェックイン | 丁寧な依頼、内容の確認 | モデル対話、ペアでのロールプレイ | フィードバックを受けながらロールプレイをくり返す、重要語彙 |
| 3 | 設備や規定の説明 | 情報の伝え方、条件文 | インフォメーション・ギャップ | ロールプレイ、キーフレーズの発音 |
| 4 | 予約ミスへの対応 | 謝罪、代案の提示 | 問題解決型のロールプレイ | 想定外の展開を加えたロールプレイ |
| 5 | 電話での依頼 | 聞き返し、スペル、数字 | 電話のシミュレーション | 時間制限つきでくり返す |
| 6 | 中間チェック | — | 第1週のタスクをもう一度行い、ルーブリックで採点 | 最も弱い評価項目の練習 |
| 7 | 地元のおすすめを紹介する | 提案、描写 | ミニプレゼンテーション | 時間を計ってくり返すモノローグ |
| 8 | 苦情対応と事態の沈静化 | 共感の表現、やわらげる言い方 | だんだん緊迫していくロールプレイ | 怒っているお客様とのロールプレイ |
| 9 | フォローアップのメール | フォーマルなメールの構成 | モデル、下書き、ピアレビュー | 文ごとのフィードバックつきのライティング課題 |
| 10 | 最終評価 | — | 第1週のタスクをもう一度と、初見のタスク1つ | 伸びの振り返り |
この表は3つの選択に支えられています。初回と最終のタスクが同じなので伸びが見えること、どの場面も授業の合間にもう一度練習すること、そして想定外の展開を少しずつ加えることです。授業の合間の練習の出し方は、AIスピーキング宿題のガイドをご覧ください。
分野に合ったESPのロールプレイはどう書く?
ESPのロールプレイは、どのシナリオでも同じロールプレイカードを使うと、書くのも、実施するのも、評価するのも楽になります。ロールプレイカードとは、学習者がどこにいて、誰と話し、何を達成すべきか、成功をどう判断するかを伝える短い指示書です。
そのまま使えるロールプレイカードのテンプレート
- 場面:どこで、いつ。例:ホテルのフロント、23:00。
- 自分の役と目標:学習者が誰で、何を達成すべきか。例:夜勤のフロント係。今夜お客様の部屋を確保する。
- 相手:役柄、気分、隠れた事情1つ。例:第三者の予約サイトで予約した、疲れたお客様。
- 必ず使うこと:その単元のキーフレーズや用語を3〜5つ。
- 想定外の展開:対応すべき問題1つ。例:ホテルが満室。
- 成功の基準:観察できる結果を2〜3つ。例:名前と日程を確認し、2つの選択肢を示し、丁寧に締めくくる。
- レベルと時間:B1などのCEFRの目標と、3〜5分。
場面を変えずに難易度を上げるには、想定外の展開を加える、時間制限を設ける、相手に予想外の質問をさせる、といった方法があります。くり返しも計画に入れましょう。Martin Bygateが編集したLearning Language through Task Repetition(2018年)は、同じ内容と目的のタスクをくり返すことについての研究をまとめたもので、くり返しを、タスクとその言語の両方の習熟が深まることと結びつけています。
分野別のロールプレイ集
ロールプレイ集とは、上のテンプレートでカードにできる、分野ごとのシナリオをまとめたリストです。CEFRの目標は目安なので、初回のタスクのあとで調整してください。
| 分野 | シナリオ1 | シナリオ2 | シナリオ3 |
|---|---|---|---|
| 医療・看護 | 入院時の問診(B1) | SBARを使った勤務交代時の申し送り(B1〜B2) | 心配している家族を安心させる(B2) |
| ホスピタリティ・観光 | 予約に問題があるチェックイン(A2〜B1) | 部屋についての苦情(B1) | キャンセルポリシーの説明(B1) |
| 航空・空港の地上スタッフ | 欠航後の振替予約(B1) | 超過手荷物料金の説明(B1) | 遅延後の搭乗口での質問対応(B1) |
| エンジニアリング・製造 | 海外のサプライヤーへの不具合の報告(B1〜B2) | 安全説明(B1) | 技術要件の確認(B2) |
| IT・ソフトウェア | 毎日のスタンドアップミーティングでの報告(B1) | バグ報告の内容確認(B1〜B2) | 技術に詳しくないクライアントへの技術的判断の説明(B2) |
| 営業・コンサルティング | 新規クライアントとの初回ヒアリング(B2) | 価格への反論への対応(B2) | 提案内容の発表(B2〜C1) |
| カスタマーサポート | トラブルシューティングの電話(B1) | 怒っているお客様を落ち着かせる(B2) | フォローアップの要約を書く(B1) |
| 大学での学修(EAP) | オフィスアワーでの教員との面談(B1〜B2) | ゼミでのディスカッション(B2) | 研究発表後の質疑応答(B2〜C1) |
SBAR(Situation 状況、Background 背景、Assessment 評価、Recommendation 提案)は、Institute for Healthcare Improvement(IHI)が紹介している、構造化された申し送りの形式です。勤務先の病院に独自の手順があれば、そちらを使ってください。各カードを書く前に、経験を積んだ専門職なら実際にどう言うかを専門家に尋ねましょう。企業と連携して行うコースについては、企業の語学研修のガイドをご覧ください。
ESPコースはどう評価する?
ESPコースは、一般的な文法テストではなく、目標タスクそのものでの学習者のパフォーマンスで評価すべきです。最もシンプルな設計は、開始時・中間・終了時に同じ仕事のタスクを行い、終了時にはさらに初見のタスクを1つ加えて、新しい場面にも言語を応用できるかを確かめるものです。
各パフォーマンスは分析的ルーブリック(評価項目ごとに別々の点をつけるルーブリック)で採点します。英語スピーキング評価ルーブリックをベースに使えます。「正確な専門用語とわかりやすい説明」のような分野の評価項目を1つ加え、ニーズ分析に合わせて項目の比重を決めます。フロント業務のコースなら、発音よりタスクの達成を重く見ることもあるでしょう。
少なくとも初回と最終のタスクについては、専門家に分野としての適切さを判断してもらいましょう。文法的に正しい文でも、看護師やエンジニアには不自然に聞こえることがあるからです。第1週と第10週を比べられるようにパフォーマンスを録音し、宿題の提出状況は能力の証拠ではなく参加の記録として扱います。
ESPコースのどこでAI練習を使う?
ESPコースでのAIの役割は、コースを設計することではなく、教員のアシスタントと授業の合間の練習相手になることです。Laurence Anthonyが2025年に学術誌ASpに発表した論文AI-Assisted ESP Course Design and Implementationは、AIツールを「ESPの専門家を支えるアシスタント」と位置づけています。関係者アンケートの作成と分析、ニーズ分析の結果から学習目標への変換、専門的な言語についての学習者の質問への回答、学習者のアウトプットの評価の補助などです。
授業の合間のAI練習が最も役立つのは、くり返しです。学習者はAIにお客様や患者、クライアントを演じてもらいながら、その週のロールプレイをくり返し、すぐにフィードバックを受けて、もう一度挑戦します。授業の時間は、人とのやり取りや専門的なインプットに使えます。
限界にも注意が必要です。Anthonyは、AIツールがもっともらしく聞こえても微妙に、あるいは完全に間違った答えを出すことがあり、分野の知識を持つ教員はそれに気づきやすい立場にあると警告しています。実際には次のようにします。
- AIが下書きしたカードはすべて、用語、手順、数値を専門家に確認してもらう。
- 患者の記録、顧客データ、機密文書をAIツールに貼り付けない。先に匿名化し、所属機関のデータ方針に従う。
- 実際の職場の文書と、分野の情報提供者をプロセスに残す。
- 目上の同僚にどこまで率直に言うかといった職場の規範は、人の判断に任せる。
AvoLabsが提供するAI語学学習サービスのAvoLingoも、この役割分担に沿っています。教員は手持ちの教材(アップロードしたPDFや画像、入力したテーマ、YouTubeのリンク)から、ロールプレイのシナリオや話す・書く宿題を作り、編集・プレビューして、独自の評価項目と比重を設定できます。教員が割り当てるまで、学生には何も届きません。学生は毎回の取り組みのあとにすぐフィードバックを受け取り、教員はあとで結果を確認して、学生一人ひとりの進捗を追えます。詳しくは大学・ESP向けのAvoLingoをご覧ください。
新しいESPコースはどう導入する?
新しいESPコースは、本格導入の前に試行(パイロット)をはさみ、段階的に導入しましょう。問題を、修正の手間が小さいうちに見つけられます。
- 範囲を決める。分野、学習者、コースの期間、承認する人を明確にします。
- ニーズ分析を行う。質問リストを少なくとも3つの情報源に使い、実際の文書を集めます。
- 目標タスクを選ぶ。6〜8つに絞り、CAN-DO形式の目標を書いて、専門家に確認してもらいます。
- 評価を先に作る。教材より先に、初回のタスク、終了時の初見のタスク、ルーブリックを書きます。
- 教材とロールプレイカードを下書きする。分野の文書をもとに作り、用語は専門家に確認してもらいます。
- 少人数で試行する。数人の学習者とロールプレイを2〜3回行い、わかりにくいカードを書き直します。
- コースを実施する。授業で練習し、授業の合間にくり返し、中間チェックを行います。
- 振り返って改善する。初回と最終のパフォーマンスを比べ、学習者と依頼元に何が変わったかを尋ね、次のグループに向けてニーズ分析を更新します。
よくある質問
ESPと一般英語の違いは?
ESPは、学習者が特定の職業や学問分野でこなすべきタスクから出発し、そのタスクのための言語、教材、評価を選びます。一般英語は、レベルと日常的な話題に沿って幅広く段階的に進みます。
目標ニーズと学習ニーズとは?
目標ニーズとは、目標となる場面が求めること、つまり必要なこと、不足、希望です(HutchinsonとWaters、1987年)。学習ニーズとは、時間、意欲、教材などのリソース、コースの条件など、学習者が学ぶために必要なことです。ESPのコース計画には両方が必要です。
ESPコースの期間はどれくらいが適切?
ESPコースの期間は、現在のパフォーマンスと目標とのギャップ、そして使える時間によって決まります。計画の目安として、Cambridge Englishは、CEFRのレベルを1つ上げるのに約200時間のガイド付き学習時間(guided learning hours)がかかると見積もっていますが、これはあくまで目安です。そのため、多くのESPコースはレベルを丸ごと上げることではなく、特定のタスクを目標にしています。
AIでESPのロールプレイを作れますか?
AIは、手持ちの教材からシナリオやロールプレイカードを下書きし、授業の合間に学習者に追加の練習を提供できます。学習者が目にする前に、教員か専門家が用語と手順を確認してください。
参考資料
- Hutchinson, T. and Waters, A. (1987). English for Specific Purposes. Cambridge University Press.
- Long, M. H. (ed.) (2005). Second Language Needs Analysis. Cambridge University Press.
- Basturkmen, H. (2010). Developing Courses in English for Specific Purposes. Palgrave Macmillan.
- Anthony, L. (2025). AI-Assisted ESP Course Design and Implementation. ASp, 88, 217–232.
- Bygate, M. (ed.) (2018). Learning Language through Task Repetition. John Benjamins.
- 欧州評議会(2020年)CEFR補遺版(Companion Volume)、行動志向アプローチ(The action-oriented approach)
- Gatehouse, K. (2001). Key Issues in English for Specific Purposes (ESP) Curriculum Development. The Internet TESL Journal, VII(10).
- Cambridge English. Guided learning hours.
- Institute for Healthcare Improvement. SBAR tool: Situation-Background-Assessment-Recommendation.
AvoLingoチームが



